学園祭でパン屋を開く

俺の通う専門学校では、毎年7月のアタマに「ショップフェスタ」なるイベントをやることになっている。
世間で言うところの「学園祭」だ。
飲食系の専門学校なので、出し物はもちろん食べ物屋さん。
お菓子やイタリアン、カフェなど、各学科がそれぞれ、校内に2日間限定の飲食店を開くのである。


「模擬店」という単語は使わない。
なぜなら「お店ごっこ」ではないからだ。

いつもの実習室を布で区切って、ありあわせの材料で飾り付けた手作りのお店ではあるが、あくまでも正式な「ショップ」である。
プロ(の卵)として恥ずかしくない商品を出し、そして接客をする‥‥と、そういう事になっている。



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俺の所属する製パン科は当然、パン屋さんをやる。


この日のために5月あたりからずっと、授業の合間にちまちまとミーティングして店名やコンセプト、メニューやら決めて準備してきた。
そしてイベント直前の10日間ほどは連日、朝から夕方までひたすら準備準備である。


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よってたかって、発泡スチロール切り出してディスプレイ作ったりさ、布で実習室を区切って店舗内装したり。
はたまた缶スプレーで塗装したり木工用ボンドで手をベタベタにしたり。

20年ぶりくらいの「学園祭の準備」だ。
いい歳こいて少し気恥ずかしいが、まあ俺も学生だからな。



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ガラスにカッティングシートでロゴ貼り付け。
コレは俺が一人で担当した。えっへん。




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ちなみに、売り場のコンセプトは「童話」。
これは「三匹のこぶた」コーナーね。


平行してショップに並べる商品も試作したり工程の段取りを練ったりもする。
パンは当日の朝に焼かなくちゃならない商品がほとんどなので大変だ。

約20種のパンを開店時には揃えなきゃならないんだから、そりゃもうショップフェスタ当日の朝は戦争もいいとこ。
朝の5時半に集合で仕込みの開始だもの。

俺は京都から大阪に通ってるからそんな時間には物理的に集まれないけど、それでも朝の4時に起きて始発に乗って、可能な限り早く登校して仕込みに参戦した。

ミキサー回して!
分割!成形!
次の生地持って来て!

殺気立った厨房。
まったく、写真撮るヒマなんてありゃしない。



俺自身はこのショップ、店長とかそんなに責任ある仕事はしていない。
パン作りについてはスタッフの一人、という扱いだ。
それでもピリピリしたしヘトヘトにもなったんだから、店長や副店長の疲労心労は如何ばかりか。

そういう意味では、やっぱり、模擬店じゃないんだわ。
「お祭」だから‥‥とか「模擬」だから‥‥なんていう、「なんちゃってパン屋」気分じゃ、こんなにしんどい事、とてもやってられない。


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さて、フラフラになりながらもパンいっぱい焼いて、いよいよ開店。
みんなで焼いたパンをフェスタに来場していただいたお客様に買っていただくのだ。

もちろん、開店しても休んではいられない。
今度は接客しつつ、厨房では明日のパンの計量なんかの準備をしなくちゃならんのよ。


売れたパンの補充したり、店舗ではレジ打ち、袋詰めとか。
パン作る以外にもやることは沢山。
みんなクルクルと良く働くなあ。


俺は1日目の前半と2日目の後半、売り場でトング係を受け持った。
残りの時間はキッチン担当な。

トング係ってのは、お客様に「いらっしゃいませー」とか言いながらトレイとトングを渡す仕事…のハズなんだが、なんせお客様が多く、レジや袋詰めの子が手一杯になってるもんで、店内の接客を一手に引き受けることになる。

1日目の開店直後はお客様が溢れて行列になったんで、ペコペコしながら入店制限かけたりしてさ。
店内にいるお客様を常に10人程度に抑えなきゃならんの。でないとレジがさばけない。
トングやトレイの数も足りないし。


廊下に溢れるお客様の行列に、
「申し訳ございません、只今店内混み合っておりまして、少々お待ち下さい」
って、お辞儀して顔上げたら、行列の先頭にいたのがウチの嫁とオカンだった時はさすがに脱力したがな。
(ぶっちゃけ、ショップフェスタのお客様は近所の一般客が少しと、あとの大半は生徒の父兄や学校関係者なのだ。)

ま、これについては家族に頑張ってる姿を見せられて良かった…という事にしておこう。


2日目の後半に接客担当した時は、お客様の人数は少なくてマターリとやれたんだが、お店がすいてるからこそのお客様も来られるわけで。

例えば足の不自由なお年寄りのお客様にはトレイを渡すんじゃなくて、俺が代わりにパンを取ってあげなきゃいけない。

重い荷物や赤ちゃん抱えたお客様には、お荷物お預かりしますよ、って声かける必要がある。


あとは、お客様の質問に答えるのも仕事。
たとえ質問されなくても、「これはどんなパンかな?」って困ってらっしゃるお客様にはこちらから声かけて説明するし。
‥‥フォカッチャの説明なんか6回くらいしたっちゅうねん。

あとアリコベールっていうフランスパンでうぐいす豆を包んだパンの事も「どんな味がするの?」って良く質問されたっけ。
甘いかしょっぱいか、見た目でわかんないパンはお客様も買いにくいみたいで、俺が説明すると安心して買っていただけるのが嬉しかった。



商品が一つ完売する毎に、俺が例えば「只今メロンパン完売いたしました!ありがとうございました!」と雄叫びを挙げる。
うん、雄叫びだ。

続いて店内の全スタッフが「ありがとうございました!」と復唱。

そして空になった商品カゴに貼れる「SOLD OUT」のカード。


なんだろ。俺、店長でもなんでもないのに、こんな目立つポジションでいいんだろうか。
俺、朝も遅れて来てるし、他の学生に比べてそんなにメインでは参加できてないのに。

申し訳ないような気持ちになるが、だからってお客様の前だ。俺が声を出さなきゃどうにもならん。
「いらっしゃいませー!」
「ただいまカンパーニュ完売いたしました、ありがとうございましたー!」



閉店時間が近づいて、生徒の買い物が解禁(一般のお客様優先で、生徒の購買は制限されてたの)されてからはもうひとふんばり。
学生相手にはウインナーロールなんかのお惣菜パンが良く売れる。
それと、学科は違えどウチの生徒だから食べ物への関心は高い。
仕上げに一手間かけたパンなんかは、例えば「手作りのトマトソース使ってるんですよー」とか説明すると「へえー」って買っていただけたりする。
さあさあ、売っとけ売っとけ。
お客さんが来るうちに。


そして閉店30分前。
残り4商品、30個くらいになったあたりからお客様も流石に「パン、これだけしか残ってないん?」って感じになってきた。
それでもなんとかお買い上げ頂いて…
残りは「そら豆のフォカッチャ」が6個のみ。

さすがにこれではパン屋として成立しない…というところで、先生が俺に
「もう残りはお前が買え!」
と言ってきた。

なんかそれもインチキくさいかなと思ったが、こんな状態ならさっさと完売御礼で閉店したほうがお客様をガッカリさせないでいいだろう。
「あー、じゃ、残りのパンは俺が買い取ります。」
会計の子らがニコニコとレジを打ってくれ、最後の客となった俺がパンを受け取ると…

「よし、じゃ、例の台詞で締めろ」
先生がニヤニヤして言った。
あ、それで俺に買わせたかったのね。

すう、と息を吸い込んで。

「ただいま、そら豆のフォカッチャ、完売いたしました!」
‥‥完売いたしましたもクソも、俺が買ったんだがな。


そして

「これにて全ての商品、完売いたしました!ありがとうございました!!」

絶叫。

拍手。




店が閉まれば後片付け。へたばってる時間なんて、ない。
ちゃっちゃと店舗解体して、何もなかったかのように実習室に戻して。

先生、そして店長からまとめの挨拶。

‥‥そして解散。
ややあっけなく騒乱のフェスタは終わり、日常へ。
(つか、この学園祭が終わったらそのまま夏休みだ)

たった2日間だけの店舗運営だったけど、やはりヘットヘトに疲れた。
2日間とも、昼飯抜き休憩なしで12時間以上立ちっぱなしだったからな。

「パン屋になるという事は、これが毎日続くっちゅうこっちゃ。」
と、先生がイタズラっぼい口調で言ってたな。そう言えば。


いろいろ反省点も多いし、凹むことも憤慨することも多かったけれど。
それでも、楽しかった。
技術的にはさっぱりだが(むしろ自信なくす事も多かった)、スタミナ的にはなんとかまだやれる…と自信はついたかな。
あと、いろいろと、気がついたこと、学んだことも多かった。

専門学校に入学して、授業開始が4月の中旬から。
正味まだ3ヶ月しか経ってないのに、これだけのお店ができたって事には満足していいんじゃないかなぁ。



さあ帰ってバタンキューしようと、コックコートから私服に着替えるため、ロッカーロームにヨボヨボしながら階段を登っていると。
どの学科の生徒だかわかんないけれど、女の子が「パン美味しかったですよー!!」ってニコニコしながらすれ違いざまに声をかけてくれた。

「ありがとうございます!!」
‥‥とりあえず、これが今日最後の営業スマイル。
今日はコックコートを脱ぐまでは、俺はパン屋さんなんだ。


フェスタでの俺達のパン屋の売上は二日間で34万円あったらしいが、もちろん生徒達にギャラが出るわけではない。(‥‥この売上はどこに行くんだろう?)
さっきの「パン美味しかったですよー」の一言と笑顔が、俺のギャラってことにしておこう。

‥‥ちょっとキザすぎ?

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